NPO法人 日向ぼっこ

MEDIA

分かち合うことが生きる希望につながる

2012年3月 『若者ホームレス白書2』 18ページ ビッグイシュー基金

 児童養護施設や里親家庭などで育った人が集えるサロン「日向ぼっこ」を運営している渡井さゆりさん。渡井さん自身も、児童養護施設で育った当事者だ。住居をはじめとする社会的養護で育った人たちが抱える問題や当事者同士が集う意義などについてお話をうかがった。


 頼る家族がいない、帰れる家がない、児童養護施設を巣立った人たちが、失業など、ちょっとした躓きが原因となりホームレス状態に陥ってしまう――ちょっと考えてみればわかることだと思います。にもかかわらず、長い間、気づかれず、見過ごされてきました。

 児童養護施設や里親家庭など、社会的養護のもとで育った人たちが気軽に集えるサロン「日向ぼっこ」をはじめた理由の一つには、当事者の立場から発信することによって、私たちが直面する現実を少しでも多くの人に知ってもらいたいという願いもありました。

 「日向ぼっこ」では、皆で一緒に食事を作ったり、談笑したり、ギターを弾いたりして、それぞれがのんびりした時間を過ごすことができます。当事者どうしが緩やかに繋がる場所になっているんです。

 時には切迫した相談も寄せられます。「妊娠してしまった」とか、「住み込みの寮を明日出なければならない」といった内容も少なくありません。直接話を聞き、必要があれば他の機関を紹介します。

 住居に関する問題は深刻です。男性の場合、ホームレス状態になってから連絡してくる人もいます。女性の場合、ホームレス状態で連絡してくる人はほとんどいないですが、家賃を滞納した弱みにつけこんだ大家から性的嫌がらせを受けたといった相談を受けたこともあります。

 私自身、高校卒業後、施設を出てアルバイトを始めましたが、仕事を失う不安、住居を失う不安と常に隣り合わせで、精神的にとてもしんどい思いをしました。不安を少しでもなくすため、バイトを掛け持ちし、1円でも多くお金を貯めなければいけない生活。夢を実現するために働くのではなく、働かなければどうにもならないから働く――自分をトコトン追い込んだ末、うつ状態に陥ってしまったこともありました。

 一人で抱え込まず、誰かに相談すれば良かったのでしょう。育った児童養護施設へ助けを求められなかったのか、と言う人もいるかもしれません。しかし、そもそも相談するという発想自体がなかったんです。「私は親から望まれずに生まれてきた人間だ」という自分を否定する感情をもっていたことが、一人問題を抱え込んでしまう要因だったのだと思います。

 自己肯定感が低いことが生きづらさに繋がっている――これは社会的養護で育った子どもたち全般にも当てはまります。

 私はつらかった時、同じように養護施設で育った人に相談できたらどんなに楽だったろうと何度思ったか知れません。その後、進んだ大学で同じく社会的養護の当事者だった仲間と出会えたことが「日向ぼっこ」開設のきっかけとなりました。同じような環境で育ったからこそ通じ合えること、分かち合えることがあるし、それが救いに繋がると強く感じています。

 日向ぼっこを初めてちょうど今年で6年目になります。これからも社会的養護の当事者だからこそできる活動を地道に続けていきたいと思っています。


(プロフィール)

渡井さゆり 1983年、大阪生まれ。小学校から高校まで母子生活支援施設、大舎制の児童養護施設、グループホームの児童養護施設で生活。2007年児童養護施設で生活していた当事者が主体となり「日向ぼっこ」を発足。施設出身者の孤立防止と、彼らの声が養護や政策に生かされることを目指す。現在は「日向ぼっこ」理事をつとめている。

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