NPO法人 日向ぼっこ

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子供の最善の利益を守る~新しい社会的養育ビジョンを受けて

2018年 『権利擁護・虐待防止2018(増補)』 全国社会福祉協議会

 2017年8月2日に厚生労働省から「新たな社会的養育ビジョン」が発表された。賛否両論のあるところは周知のとおりであるが、その主な内容は①児童相談所・一時保護の改革②里親への包括的支援体制の強化③特別養子縁組の推進④乳幼児の家庭養育原則の徹底と年限を明確にした取組目標である。とりわけ社会的養護関係者を驚かせたのは、「3歳未満についてはおおむね5年以内に、それ以外の就学前の子どもについてはおおむね7年以内に里親委託率を75%以上にする。学童期以降はおおむね10年以内を目途に里親委託率50%以上にする」と発表されたことだろう。本稿では、この新しいビジョンを受け「子どもの最善の利益を守る」ということを再考する。そのため、まず、当団体の概略について述べ、次に「社会的養護関係者における養育・生活、自立の実状と思い」、そして日向ぼっこが考える「必要とされる、社会的養護のあり方」について述べる。

1.NPO法人 日向ぼっこについて

 まず、当団体の概略を述べる。当団体は2006年、施設や里親のもとで育った、いわゆる社会的養護の当事者である学生が集まり「社会的養護の当事者が孤独を感じないように、当事者のネットワークを作りたい」という思いで当事者主体の団体として活動を開始し、2008年から東京都の「ふらっとホーム事業(退所児童等アフターケア事業)」を担うこととなった。しかし、活動を通じて、当事者ではない方からのご相談も数多くあり、孤独を感じているのは社会的養護の当事者だけに限ったことではないことから、ネットワーク作りにおいても様々な方に参加していただくことが必要と感じ、2013年から社会的養護の当事者に限らず、多くの人にかかわっていただき「多様性が尊重される社会の実現」を活動の目的とし活動している。このように当団体は社会的養護の当事者主体の団体として活動を開始したことから、現在でも多くの社会的養護の当事者の方が活動に関わってくださっており、社会的養護に関することは重要な活動と位置付けている。そして日向ぼっこでは社会的養護とは、特定の子どもを特定の人たちで養い護るのではなく、「全ての子どもを社会みんなで育てるもの」との考えに基づき活動を行っている。

2.社会的養護関係者における子どもの養育、生活・自立の実状と思い

 ここでは、まず私たちがかかわった様々な方々から伺った社会的養護関係者における子どもの養育、生活・自立の実状のなかで施設、里親に共通することを述べ、次に「子どもの養育・生活、自立の実状」について児童養護施設と里親に分けて述べる。

(1)まず、共通することがらとしては、①近年では社会的養護のもとを離れたくないといった声を耳にすることが多いと感じる。その理由として「なんでもして貰えるから」とはっきり言う方もいる。生活する環境が安心で安全な場所と感じており、居心地がいい養育環境と思われ、それ自体は大事なことである。しかし、自立の側面から考えると、自立に向けて成長できる環境といえるのかについて、再考する必要があると思われる。また、自分のことに関する事にも関わらず、施設職員や里親等の意見が優先され、自分の意思が尊重されなかったと感じている方が少なからずいる。例えば、「進路については自分の知らないところで、事が進んでいた」「心の準備が出来ていないのに、生い立ちの整理や真実告知を大人の都合で押し付けられる」といったことを耳にした。このことは子どもの信頼関係を築くことを阻害するだけでなく、自己決定をする機会が奪われ、自尊感情や自立心を阻害する可能性がある。

(2)次に児童養護施設における養育・生活、自立の実状については、①まず職員の異動が行われるところが多く、養育者が変わることが多い。このことは子どもとの信頼関係を築きにくくしており、仮に信頼関係が築けても、自分の担当職員が変わってしまうことにより、継続した関係性を持ちにくい。更に退所後何か相談したいことが起きて施設を訪ねたくても、すでに知っている職員がいないなどの理由から尋ねづらいなど、アフターケアにも影響を及ぼしている。②また、職員がいつも多忙であり、個別の時間を取ってもらいにくいという声がある。これでは大事な話があるときでも話せなくなってしまい、問題を一人で抱え込んでしまう可能性がある。③また、集団生活ゆえにできるだけ全員を平等に扱うことが望まれ、画一的な対応となり、個人の意向が反映されにくいようである。④しかし一方で児童養護施設では職員が多数いるため、特定の職員との関係がよくないときにも、他の職員に話すことができる。また、施設には職員だけでなく、実習生やボランティアの方など外部の方がかかわっていたり、様々な行事が年間を通して行われており、多くの方とかかわる機会や、情報を得る機会が多くある。そして、このことは施設を出た後も役立っていると聞いている。

(3)里親における養育、生活・自立の実状については、①施設とは異なり、里親やその家族といった特定の人と継続的な関係のもと、家庭的な養育環境で生活できることが期待でき、家庭を作る際の参考になりうる。②しかし、一方で少人数間であることから、施設に比べて関係性が閉鎖的になりやすい。そのため里親やその家族との関係が悪化した場合、関係修復が難しく、場合によっては委託解除となり、その経験は里親、里子の双方にとって深い傷となってしまう可能性がある。また、不適切な養育が行われた場合も、施設に比べ早期発見が難しいといった可能性も考えられる。更には、私たちがかかわった家庭で虐待を受けた方からは「また家庭に入れられるなんて考えられない」と言った声もあった。

3.必要とされる、社会的養護のあり方

 上述のように、子どもの養育、生活・自立の実状については、児童養護施設も里親もそれぞれ一長一短であるといえる。それを踏まえ、「子どもの最善の利益を守る」ために日向ぼっこが必要と考える社会的養護の在り方について述べる。

(1)まず、子どもの意見を政策にできるだけ反映させることが不可欠である。このことは「子どもの最善の利益」ということを考える時に、最も重要なことであると考える。上述したように自分の事にも関わらず、自分の意思が尊重されない場合がある。例え、現状ではご本人の希望通りにならないとしても、本人の思いを受け止め、希望通りに出来ない場合は、そのことについて十分に時間をかけて話し合うことで「自分の意志を尊重してもらえた」と感じることが出来、自尊感情が生まれ、信頼関係が築けると思われる。

(2)次に子どもにとっての選択肢をできるだけ増やすことが必要である。そのためには子どもたちができるだけたくさんの情報を得られることが必要となる。例えば、私たちが耳にするところでは、多くの社会的養護の当事者は里親に行けないことが不満なのではなく、施設以外の選択肢がないことが大きな不満であると思われる。上述したように児童養護施設、里親ともに一長一短であることから、施設か里親かという二者択一ではなく、両方が充実したものとなり、子どもが自分の生活場を選択できる余地があることが子どもの最善の利益となると考える。

(3)そして養育者への支援のさらなる充実が求められる。私たちは「家庭(親など)のもとで生活したい」「家庭(親など)の支援をして欲しい」という声もよく聞くことから、施設や里親だけではなく、永続的に家庭でも生活出来るよう、家庭(親など)の支援に特化した制度が必要と考える。現状では、社会的養護に入った子どもは施設や里親のもとで、養育を受け成長することができるが、子どもの養育について社会的養護を頼ることとなった親はその後十分な支援を受けたり、養護されることがないことが多いように思われる。このことは子どもの家庭復帰を妨げる大きな要因となっていると思われる。社会的養護にかかわることになった子どもにとって適切な養育が必要なように、子育ての中で社会的養護を頼ることとなった養育者にもそれなりの事情があり、円滑な家庭復帰を望むなら、その養護が必要であると考える。
 里親への支援については、私たちの知るところでは、里親の方々への支援は現状では十分とは言えないようであるが、今回の「新しい社会的養育ビジョン」のなかで、里親への支援を抜本的に強化する旨が里親委託を急増させることとともに述べられている。児童相談所に相談すればダメな里親と思われ、場合によっては不調として措置解除になりかねないことを恐れ、本来里親の方の相談機関であるべき児童相談所が十分その機能を果たしていないといったことも聞いている。里親のなり手を確保するだけでなく、このような現状に鑑みて、里親への支援体制が強化されることを強く望む。
 児童養護施設職員への支援という意味では、児童養護施設の施設職員の早期退職者が多いことを見ても、人員の充実が急務であると考える。そうしなければ、個々の子どものニーズに応えることは、困難であると思われる。

4.まとめ

 「子どもの最善の利益」のために、今、求められる社会的養護について考えると、それらは社会的養護の当事者に限ったことではないと思われる。子どものための制度が、「大人の都合で作った制度」と感じられ、利用し難い、あるいは利用できない制度となってしまい、結果的に子どもの最善の利益に資することができない制度とならないために、子ども達の意見や子どもに携わる多様な方々の意見をできるだけ政策に反映させ、多角的視点から議論を尽くし、変動する時代や社会に即した社会的養育となるよう考えていきたい。

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