NPO法人 日向ぼっこ

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「日向ぼっこ」から見える社会的養護

2018年3月増刊号 歴史地理教育

本稿においては、まず、当団体について紹介をさせていただき、続いて私たちから見える「社会的養護」「今後の社会的養護の展望」について述べる。

1. NPO法人 日向ぼっこについて

(1)成立と経緯
 「日向ぼっこ」の活動は2006年3月、異なる児童養護施設(以下施設)で育った3人の学生が集まり「これから施設を退所する人たちが、自分たちが感じていた孤独を感じなくてもいいように、当事者のネットワークを作ろう」という思いから、まずは施設の現状や制度を把握するために不定期で勉強会を始める活動を始めた。1年後の2007年春に初めての座談会を開催し、「施設で嫌だったこと、よかったこと」などを語り合い、語った内容を意見表明文にまとめ、厚生労働省と全国児童養護施設協議会に提出した。こうして、色々な方を招いて勉強会や座談会を続けていく中で「自分の気持ちを理解してもらえる仲間」に出会え「似たような境遇の人たちと話すことが出来る」と思える事が必要だという思いが高まり、様々な方のご協力のもと2007年4月に新宿区で「日向ぼっこサロン」を開設した。2008年にはNPO法人となり、東京都の「ふらっとホーム事業(退所児童等アフターケア事業)」を担うこととなった。しかし、活動を行う中で社会的養護を経験したかどうかにかかわらず、孤独を感じていたり、ネットワークの必要性を感じていることを知り、2013年からは、より様々な方に活動に参加して頂きながら「多様性が尊重される社会の実現」を目的として活動をしている。このように、当団体は活動当初社会的養護の経験者を中心に活動を開始したことから、現在でも多くの社会的養護を経験された方が活動に関わってくださっており、社会的養護に関する活動は重要なものと位置付けている。

(2)主な活動内容
 日向ぼっこの活動は主に以下の3つである。

 ① 居場所事業
 「日向ぼっこサロン」を日向ぼっこの事務所(東京都文京区)で開催している。来館された方には自由に過ごしていたただき、安心・安全な場であると感じていただけることを第一としている。

 ② 相談事業
 面談や電話、メール、手紙、SNSなど様々な形でご相談をお受けしている。ご相談された方のお話を伺い、一緒に考え、継続的なかかわりを持ち、一人で問題を抱え込まないようすることに留意している。また、原則として、ご相談された方の承諾を得て、他機関や他団体と連携をしている。最も重要な連携先はご家族やその方が育った施設や学校など、その方のことをよく知っていたり、多くの情報をお持ちの方たちである。

 ③ 発信事業
 日向ぼっこの活動を通して知り得た様々な方の声を、毎月発行している「日向ぼっこ通信」や毎年開催している「日向ぼっこ展覧会」等のイベント、書籍、出版物、テレビ・ラジオなどのマスメディア、講演活動、ホームページやFacebookなどのWEBサイトを通じ、社会に発信している。また、厚生労働省が主宰する「社会的養護における育ち、育てを考える研究会」や特定非営利活動法人 児童虐待防止全国ネットワーク主宰の「子どもの虐待死を悼み命を称える市民集会」などの委員としての活動も大事な発信方法と考えている。

 ④ その他
 季節の行事をはじめとする様々なイベントや、日向ぼっこ基金という、利用目的利子、期限のない貸付事業も行っている。

2.活動を通して見えてくる子どもたちや家族のすがた

 私たちの活動を通して見えてくる子どもたちや家族のすがたとして、以下の3点について述べる

(1)本人の意思の尊重
 子どもに限らず、人が人間社会の中で生きていく上で、相手の意思を尊重するといことは、最も重要なことであるはずである。しかし、私たちが関わる方の中には、自分に関することにもかかわらず「自分の意思を聞いてもらえなかった」「説明もないまま大人の意見が優先された」とおっしゃり、自分の意思が尊重されてないと感じた経験を持つ方が少なからずいる。このように個人として尊重されていると思えない経験は、信頼関係を築くことを阻害するだけでなく、自尊感情や自立心を育む際、大きな弊害となる可能性がある。
これらの背景には、子どもに対する社会の「捉え方」と「関わり方」の問題があるのではないかと考える。子どもを一人の人間として尊重するのではなく、あたかも自分の所有物のように捉え、自分の考え方を押し付けるように関わるっていると思われる。

(2)問題を一人で抱え込む
 多くの人は様々な悩みや不安などを抱えながら生きている。しかし、私たちがかかわらせて頂いている多くの方が、問題について相談するための信頼できる人が周りにいなかったり、相談できる機関の情報を持たず、問題を一人で抱え込まざるを得ない状況を経験している。このことは子どもへ相談機関の情報が十分いきわたっていないことが原因と思われる。

(3)養育者への支援
 「自分は支援してもらって育ったけれど、親は何も変わっていない」などの親への支援を充実してほしいという声をよく耳にする。このことは養育者への支援が十分行われていないことを意味する。実際「親にお金を要求されて断れなかった」「施設退所後家庭に戻ってから虐待を受けた。」といったこと起きており、措置・委託解除後の子どもの生活にも大きく関わってくる。

3.社会的養護政策の現状と課題

 厚労省によれば、社会的養護とは「社会的養護とは、保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うこと」であり、また社会的養護は、「子どもの最善の利益のために」と「社会全体で子どもを育む」を理念として行われているとしている。ここでは社会的養護政策である①児童養護施設②里親③その他の政策の現状と課題について述べる。

(1)児童養護施設
 ①現状
 児童養護施設は、保護者のない児童、虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入所させて、これを養護し、あわせて退所した者に対する相談その他の自立のための援助を行うことを目的とする施設である(厚生労働省)。平成29年12月には全国615か所設置され、26,449人の児童が措置されている(表1)。基本的には集団での生活をする。児童養護施設では児童指導員、保育士、栄養士、心理療法担当職員など様々な資格を持った人が働いており、また地域の方や学習ボランティアなど多くの人が子どもたちとかかわるっている。更に年間を通して様々なイベントも行われており、子どもが色々な方とかかわる機会や、情報を得る機会が多くある。
 ②課題
 一方で施設では職員の離職率が高く、職場内での異動が行われるところも多く、養育者の変更が多い。このことは子どもとの信頼関係を築くことを難しくしており、仮に信頼関係が築けても、担当職員が変わってしまうことにより、継続した関係性を持ちにくい。そのことは施設退所後何か相談したいことが起きて訪問したくても、すでに知っている職員がいないなどの理由から尋ねづらいなど、アフターケアにも影響を及ぼしている。さらに、職員は慢性的に不足気味なことから、いつも多忙であり、必要な時に個別の時間を取ってもらいにくいという声をよく耳にする。そして、集団生活ゆえにできるだけ全員を平等に扱うことに重きが置かれ、画一的な対応となり、個々の状況に応じた対応がとりにくいようである。

(2)里親
 ①現状
 里親制度とは、児童相談所が要保護児童の養育を委託する制度である。厚生労働省によれば平成29年12月時点で、5,190人の子どもが里親のもとで生活している(表1)。里親においては、基本的に里母と里父の2名が中心となり少人数での生活をすることになる。この点においては、施設とは異なり、里親やその家族といった特定の人と継続的な関係のもと、より家庭的な養育環境で生活できることが期待できる。
 ②課題
 里親は少人数の中での生活であり、子どもにかかわりをもつ人も施設に比べて少なく、関係性が閉鎖的になりやすい。そのため、不適切な養育が行われた場合も、施設に比べ早期発見が難しい可能性も考えられるので、その対策を考える必要があると思われる。また、里親やその家族との関係が悪化した場合、少人数ゆえに関係修復が難しく、場合によっては委託解除となり、その経験は里親、里子の双方にとって深い傷となってしまう可能性がある。また、里親登録数は11405世帯あるものの、委託数は4038世帯で、委託率は35%に過ぎない。2017年8月2日に厚生労働省から「新たな社会的養育ビジョン」が発表され、政府は里親数の大幅な増員を打ち出した。しかし里親数を増やす以前に委託率が伸びないことの原因をきちんと解明することが先決であると思われる。

(3)その他の政策の現状と課題
 ①児童相談所の決定
 現状では、措置の内容、措置解除、措置変更等は当然ながら、児童相談所が決める。しかしその決定の過程や根拠は個人情報を盾に明らかにされていない。そこで少なくとも、この決定の過程や根拠を明らかにしたり、決定過程に第三者がオブザーバーという形で加わることができるようにすべきではないかと考える。
 ②措置年齢の問題
 児童福祉法では18歳までが措置期間であり、20歳まで措置延長が可能である。しかし、実際には15歳以上の児童(高齢児(こうれいじ))は、措置解除まで期間が短いことから、受け入れない施設が多いようある。
 ③措置・委託当事者の意思
 措置・委託に至る中で「何も知らされずに措置・委託が決定していた」あるいは「保護してほしかったが、自宅に戻らされた」というように、現在の政策は新たな社会的養育ビジョンも含め措置当事者の意思が十分反映されていない。
 ④養育者への支援
 たとえば親の「子育てのことを誰かに相談したら、子どもを児童相談所に取られるから相談したくない」といった言葉に見られるように、児童相談所が子育てに困った時の親にとって相談先になっていなかったり、「社会的養護を利用する親はダメ親のレッテルを貼られる」といった声をきいている。このことの背景には子育ては親責任を持ってすべき、誰かに頼ることを良しとしない社会風潮が日本に根強いことがあると思会われる。そこで、親は子育てに行き詰まっても社会的養護を頼ることができず、大きな負担を強いられ、結果として、それは子どもにも影響を及ぼしていると思われる。
 ⑤財政問題
 社会的養護の課題の根底には財政基盤の脆弱さがある。私たちがかかわらせて頂いている方々課題多くを解決するために最も必要とされるのは人材であるが、その人材確保するための十分な財源がないのが現在の社会的養護においての大きな問題である。

4.今後の社会的養護の展望

 これまでの福祉の世界は閉鎖性を否めない。「子どもの最善の利益」のために今後強く求められるのは他機関や団体との協力・連携であると考える。その中心となるのは学校と思われる。学校は子どもたちが1日の多くの時間を過ごすところであり、且つ養育者(親など)との交流もあることから、子どもの異変に気付きやすいからである。そのために私たちが学校や教員に求めることは情報の「共有」と「交流」である。
 上述したように人が問題を抱えながら生きている以上、子どもたちが相談できるところを持っていることが重要である。そのため、まず教員が子どもにかかわる様々な人や団体と交流を持ち、お互いに知り合うことが重要だと考える。そしてそこで知りえた情報を子どもたちと共有すべきである。場合によっては子どもについての情報の共有も必要となるかもしれない。そうすることで、様々な人が子どもに関わり、多角的な視点で子どもをみることがでる。
 当然個人情報の問題もあり、難しいところではあると思われるが、第一に考えたいのは「子どもの最善の利益」ということであり、子どもにかかわる人や団体・機関が協力・連携することが不可欠であると考える。

5.まとめ

 子どものための制度が、「大人の都合で作った制度」と感じられ、利用し難い、あるいは利用できない制度となってしまい、結果的に子どもの最善の利益に資することができない制度とならないために、子ども達の意見や子どもに携わる多様な方々の意見をできるだけ政策に反映させ、多角的視点から議論を尽くし、変動する時代や社会に即した社会的養育となるよう考えていきたい。

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